特別養護老人ホーム鷹濱荘(2025年9月)

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【「陽炎」について】
・平家の落人、新撰組の生き残り、太平洋戦争の元軍人など戦国・幕末・戦中の「生き残り」たちが戦後、GHQに対抗する自警団として結社
・当初は「弱きを助け強きをくじく」という鉄則で動き、戦後の混乱で市民を守った。
・財閥や商人が裏から支え、資金面も潤沢。
・時代とともに「法で裁けぬ巨悪を闇で裁く組織」として進化。
・拠点は愛知県高浜市の特別養護老人ホーム。外から見れば介護福祉施設だが、裏では諜報とコマンドの中枢。
・活動には「文化を守る」ことも含まれており、三州瓦の鬼師や春日神社の祭礼、とりめし、人形文化を守ることは結社の“聖戦”でもある。
・SNS時代、偶然若者が撮った動画から「ホーム=秘密結社」の噂が拡散し外部の敵を呼び寄せる

【敵組織】<AI監視ネットワーク「シンギュラリティ」>
正体:SNS時代に急成長したAI監視企業。国家とも結託し、全世界を監視する。
理由:陽炎は“匿名で動く人間の集合体”=AI社会の最大の脅威。
特徴:監視ドローンや顔認証、情報操作を駆使。

[シーン1:特別養護老人ホーム 鷹濱荘】

◾️SE/効果音:緊急コール(No.1530968 緊急コール)〜廊下を走る音

※CV/息を切らして走ってくるルイ

はぁっ!はぁっ!はぁっ!

緊急コールを鳴らすなんて、また誰かが転倒でもしたのかしら?

骨折とか大事(おおごと)でなきゃいいけど。

※CV/モノローグっぽく

ここは、愛知県高浜市にある特別養護老人ホーム鷹濱荘(たかはまそう)。

海沿いに建つ瀟洒な施設。

一見、どこにでもある普通の特養だが・・・

◾️BGM/スパイアクション風に転換

ここにいるのは、ただ静かに余生を送る老人たちではない。

法で裁けぬ巨悪を闇で裁く非公認の秘密諜報組織「陽炎(かげろう)」。

彼らはその「陽炎」最後の生き残りたちである。

私は介護福祉士のルイ。

しかしてその実態は・・・

「陽炎」で訓練を受けた腕利(うできき)の秘密諜報部員。

パステルカラーのユニフォームの下にはワルサーPPK。
コルセットをガンベルトにしていつでも臨戦体制の工作員なのだ。

いやいやいや、私などまだまだ青二才。

ホームの入所者は全員、超一流のエージェント。

その素顔は誰も想像できまい。

主だったメンバーを紹介しよう。

※年齢はそのまま続けて読んで

まずは、元鬼師のタクミさん(85歳)。

三州瓦で鬼瓦を作る伝統工芸職人。

特殊な材料でいろんな瓦の仕掛けやギミックを作り、敵を制圧する。

毎回私に新しい発明品を見せたくてウズウズしてるのよね。

面白いけどほっとこ。

戦時中「従軍看護婦」だったマミさん(78歳)

毒物調合の達人。

手に持っている砂糖入れには常に微量の毒が混ざっている。

今日もメタボ気味な理学療法士のおじさんに、デザート作って渡してた。

メタボ解消よ〜、って笑ってたけど・・・

おじさん大丈夫かしら?

コウシさん(82歳)は”回天”計画の元特攻隊員。

出撃直前「陽炎」にスカウトされたらしい。

水を使った戦法が得意。

介護浴槽の中でも10分以上息を止められるって。

職員が海にボールペン落としたときは、潜ってサっと拾ってくれた。

ありがたいわぁ。

伝説のスナイパー「人形菊(にんぎょうぎく)」ことコハルさん(75歳)。

いまはちょっと耳が遠くなったけど、視力とスナイパーの腕は健在。

上空150メートルぎりぎりに飛んでるドローンも一発で撃ち落とす。

昨日もドローンが近づいてきたから撃墜したって言ってたけど・・

なんかこわ〜。


元花火師で爆弾作り名人の、トシカズさん(88歳)。

破壊対象のごく一部だけを正確に、かつピンポイントで爆破する。

しかも超人的な聴力はデビルイヤー。他人の心音まで聴き分ける。

こないだも「ルイちゃん、心拍数あがってるよ。相談員の栗栖くんの前だから?」って。

いらんことを〜。

カズオさん(90歳)は、凄腕の金庫破り。

少〜し認知入ってるけど、錠前開けの腕は健在。

所長が金庫の鍵なくしたときなんて、つまようじ一本で開けちゃったし。

すごすぎる〜。

最後は、ヤマサキさん(年齢不詳)。

戦後の混乱期から今まで、諜報機関「陽炎」の指揮官。

3年前の脳梗塞が原因で寝たきり・・・

というのはカムフラージュ。

超人的なリハビリを半年続けて復活。

密かに私に指令を出している。

表情ひとつ変えずにぼそっと言うから、ちょっと怖い。

◾️SE/効果音:緊急コール(No.1530968 緊急コール)〜廊下を走る音

※CV/息を切らして走ってくるルイ

はぁっ!はぁっ!はぁっ!

呼んでいるのは4階の北の端。多目的交流センター。
私が打合せをしていたのは南の端1階のデイルーム。

走っても遠いわ。

はぁはぁ・・・

あ・・れ?

交流センターのマットに寝かされてるのは・・・タクミさん?

ま〜たなんか瓦でヘンなモノ作ってたんじゃない?

「タクミさん、大丈夫?」

「ああ、ああ。ちいっとばかし、転んじまったわ」

「バイタルは?」

「正常じゃ」

「打ったのはひざ?

見せて・・・腫れてはいないわね」

「ああ」

「一応、総合病院行こう」

「そうじゃな。いこいこ」

タクミさんは遠足へ行く子どもみたいな笑顔。

わざとらしく足を引き摺りながら、車に乗り込んだ。

[シーン2:介護車両「よしはま号」】

◾️SE/介護車両の車内音

「転倒なんて嘘でしょ?」

「いや、うそじゃない。わざとだけど」

「もう〜。

デイルームから多目的まで必死で走ったのよ」

「ほかほか。ええ運動になったのう」

「なぁにが。で、要件は?」

「昨日三味線弾きのカズヤが慰問にきたじゃろ」

「ああ。陽炎の連絡員、カズヤさんね」

「演奏の幕間(まくま)にちらっとだけ聞いたんじゃが・・・」

「なあに?」

「最近、裏の世界で不穏な動き、というか空気があるんじゃと」

「どうしたの?」

「八咫烏(やたがらす)って知っとるじゃろ?」

「同業ね。あっちはカズガ/ハルヒ神社の神官たちのグループじゃない」

「宮司のサカキバラを除いて全滅らしい」

「ええっ!?

500年以上も続いている神官と巫女のエージェント集団よ!」

「そうなんや」

「どういうこと?相手は誰?」

「わからん。

だから、いくつかわしが秘密兵器をつくっておいた」

「まぁた、瓦でヘンなもん作ったんでしょ」

「失礼だな。まあ見ろ」

「はいはい」

「まずはこれ」

「ただのキーホルダーじゃない。
たしかクラファンの返礼品でしょ」

「そう見えるだろうがな、これは手榴弾じゃ」

「え〜」

「爆弾作り名人のトシカズさんに爆薬を調合してもらってな。

窯の中で爆発させず、強度も保てる瓦爆弾を焼いてもろうたんじゃ」

「そんなん持ってるだけで危ないじゃん」

「そうかぁ?

ほんじゃこっちは?

三州瓦を細かく砕いて、特殊な合成樹脂で固めた手甲(てっこう)じゃ。

一見、ただのギプスに見えるやろ?

拳銃の銃弾(たま)だって弾き返すんやぞ」

「重いだけじゃん」

「やっぱ若いやつには、この価値はわからんかぁ。

見よ、この瓦の艶。美しいのう」

「もう総合病院着くわよ。

とりあえずレントゲンだけはとっときましょ」

結局、タクミさんは手首を骨折していた。

瓦のギプス、役立ってよかったじゃん。

まあ、股関節の骨折じゃなくてひと安心。

早くホームに戻ってボスに報告しなくっちゃ。

[シーン3:ビッグボス】

◾️SE/小鳥のさえずり

「八咫烏が全滅だと?」

「はい。生き残ったのは宮司のカズヤさんだけ」

「シンギュラリティだな」

「シンギュラリティ?なんですか、それ」

「先週防衛省の役人がきたとき、ちらっと言っておった」

「防衛省の役人!?そんなん、いつきました?」

「なんや。ほれ、マミの家族が訪ねてきとったろ?」

「ああ、あの息子さんとお孫さん・・・

ってあれ、偽物だったんですかぁ!?」

「年に一度の定期連絡じゃ」

「年に一度しか顔を見せないなんて冷たい家族だなあ、

って思ってたんですけど・・・

え、でも・・・お孫さんは?子役ですか?」

「チャイルドプレイのメンバーじゃよ」

「チャイルドプレイ?ちょっと頭が混乱してきました」

「正式には非政府組織のNGO。

10歳未満のこども中心の諜報メンバーじゃな。

労働基準法の『年少者保護規定』にひっかかるんでNGOになっとる。

売れてる子役はたいがいメンバーだぞ」


(※以下カット可能)

「ひえ〜。芦田愛菜とかも入ってたりして」

「初代隊長じゃ」


「いやいやいや。そうですか。ごちそうさまでした」

「話を戻そう。

シンギュラリティは、AI監視ネットワークを駆使した反政府団体じゃ。

SNS時代に急成長したAI監視企業が、ならずもの国家と結託してな、

全世界を掌握しようとしておる」

「じゃあ、陽炎とか八咫烏は・・」

「基本アナログのわしらは、やつらにとって最大の脅威。

と認識し始めたらしいのう」

「だから最近正体不明のドローンが飛んでるんですね。

昨日はコハルさんが撃墜しましたけど」

「近いうちに必ずなにか仕掛けてくる。

と役人が言っておったが、まさか八咫烏を先に潰しにくるとは・・」

「どうしますか、ビッグボス」

「次の外出は、彼岸花の鑑賞やったな」

「はい」

「その次がおまんとか」

「ですね。それまでにはケリをつけないと」

「よし。じゃあ、次の外出のとき、動ける者はみんな稗田川へいけ」

「ラジャー」

「そこで敵をおびき寄せる」

「ありったけの武器を持っていきます」

「こちらの出方を悟られんようにな」

「わかりました」

「わしは残ったものと敵を迎え撃つ」

「お気をつけて」

[シーン4:稗田川の彼岸花】

◾️SE/虫の声と老人たちのガヤ

「ルイさん、彼岸花背景に写メ撮ってくれんか」

「はいはい。みなさん、周りに注意してくださいね。油断しないように」

◾️SE/写真を撮る音「カシャッ」

「おお、よう撮れとる。これ、遺影にしようかのう」

車椅子が1人。シルバーカーが1人。歩行器が1人。杖が1人。

みんな、それぞれ楽しそうに彼岸花を眺めている。

こうやっていると、みんな、ただの、人の良い老人。

でも、歩行器のフレームには大量の瓦爆弾。

車椅子のシートの下には水圧銃。

杖の内部には分解式のスナイパーライフル。

シルバーカーの中には”鉄砲玉”と呼ばれる花火爆弾。

事実は小説よりも奇なりだ。

ふと顔をあげると、彼岸花の花畑の中に、小学生くらいの男の子と女の子。

まずい。

ここから離れてもらわないと。

あわてて駆け寄り、

「ボクたち、川に落ちたら危ないから・・」

と、注意すると・・

「あ、大丈夫です。ぼくたち、チャイルドプレイですから」

「あら」

みんな準備万端ってことね。

ほどなく、ドローンの飛行音が近づいてきた。

コハルさんが素早くライフルを組み立てる。

コウシさんは水圧銃を取り出す。

あ、水圧銃というのは強力な水鉄砲みたいなもん。

トシカズさんは着火棒を握りしめる。

あっという間に空を埋め尽くす小型ドローン。

私は、サイレンサーの安全装置をはずす。

◾️SE/ライフルの銃声と墜落するドローンの音

「まず1匹」

急降下してきたドローンをコハルさんが撃ち落とす。

目視できる高さまでドローンが降りてくると、

◾️SE/鉄砲花火の音と墜落するドローンの音

トシカズさんの鉄砲花火がプロペラに火を放つ。

プロペラを焼かれたドローンはひとたまりもなく墜落する。

◾️SE/銃撃戦の音

ドローンからも実弾攻撃が降ってきた。

「みんな、固まれ!」

◾️SE/銃が瓦に当たる音

タクミさんはほぼ全身が瓦の防弾チョッキだ。

その後ろから手を出して、コウシさんが水鉄砲・・じゃなくて水圧銃を撃つ。

意外と威力があるようで、ドローンはふらつきながらショートする。

「ぼくたち、パイロットを見つけてきます」

「待って。きみたち、名前は?」

「コードネームでいいですか?」

「もちろん」

「コードネームは2人で1つなんです。オロチ、といいます」

「オーケー。

じゃあよろしくね、男オロチと女オロチ!」

「はい!」「はい!」(※なんとなくトーンの変化で)

こどもたち、じゃなくて、オロチの2人は彼岸花の草原をかけていく。

そうか。

背が小さいからステルスになるのだな。

さすが、チャイルドプレイ。

私も背をかがめて、そのあとを追いかける。

はやっ。

この子たち、将来陸上選手としてオリンピック出られるんじゃない?

「ルイさん、見つけました」

「ホントに早いわぁ」

お約束通りの黒いバン。

稗田川の堤防の下。

八反田公園( はったんだこうえん)の道路脇に停まっている。

目が合った男オロチがうなずく。

運転席に回り込んでノックした。

◾️SE/車のドアをノックする音

「すみません。道に迷っちゃって」

運転手が窓を開けた瞬間、私は助手席のドアを蹴破る。

助手席の男を引き摺り出して、蹴りを一発。

女オロチがその顔に催涙ガスをかける。

運転手がこちらを振り向いた瞬間。

男オロチは催涙ガスのスプレーをプッシュした。

完了。

「やるじゃない」

「ルイさんこそ」

敵にまわしたくない子たちだわ。

[シーン5:特別養護老人ホーム鷹濱荘】

◾️SE/ホーム館内のガヤ

私たちが稗田川でバトルを繰り広げているとき、

鷹濱荘もシンギュラリティの襲撃を受けていた。

「ボス、施設の周りにいる敵はほぼすべて駆逐しました」

「よくやった、マミ。どうやったんだ?」

「開発中の新しい毒矢で。命中率100%」

「そおか」

「早く試したかったんでいい機会だわ」

◾️SE/ドアを蹴破る男たちの声

「くっそお!フェーズ1を突破されたか」

「どうした?カズオ」

「玄関のドアを三重にして、絶対開けられない鍵をつけたのに」

「よし、じゃあ戦いに備えよ。武器をとれ」

◾️SE/ドアを蹴破る男たちの声

武装した男たちが2つ目のドアも蹴破って入ってくる。

「ボスは奥の特別室まで」

「わかった」

特別室というのは、ヤマサキさんのお部屋。

目に見えないところに、さまざまなギミックが仕込んである。

◾️SE/ドアを蹴破る男たちの声

ついに3つ目のドアも破られた。

入ってきたのはデジタル迷彩服を着た兵士たち。

しかも、単なるドットで構成された迷彩柄ではない。
色や模様がリアルタイムで変化する「アクティブ迷彩服」だ。

熱や赤外線を遮断する機能までついていた。

最先端のIT集団らしい装いである。

特別養護老人ホーム鷹濱荘には、廊下の途中途中に休憩所がある。
要介護の入所者がリハビリの途中でひとやすみする場所。

マミは、そこに置いてある飲み物と食べ物に毒薬を調合した。

スポーツドリンクに、フグの神経毒から抽出したテトロドトキシン。

少量でも体はしびれて動けなくなる。


まんじゅうには、彼岸花の球根から抽出したリコリン。

強烈な幻覚症状を引き起こし、敵味方の区別がつかなくなる。

マミの調合が絶妙なので、口に入れてしばらくしてから発症する。

結局、兵士たちの9割が、マミの毒で戦闘不能となった。

施設の職員たちは倒れた兵士を、身ぐるみ剥いで、海岸へ運ぶ。

ズラリと寝そべる全裸の男たち。

誰かがそれを見つければ、警察がやってくるだろう。

最後まで残った兵士は、10人。

彼らはついにヤマサキさんの部屋へたどり着いた。

「見つけたぞ、ビッグボス。大人しくしろ」

「大人しくもなにも、わしゃ最初から寝たきりじゃ」

兵士たちは不敵に笑い、顔を見合わせる。

「騙されると思うか。シンギュラリティに情報は入っている」

「ああそうかい。ほんじゃ、歓迎するかね」

そう言うと同時にナースコールのボタンを押す。

兵士たちのいるところの床が抜けて落ちていく。

「おや、3人残ったね」

「おのれ〜」

3つの赤い点がヤマサキさんの額に集まる。

最新のサーマルロックガン。
兵士たちの指が引き金に触れた、そのとき・・・

◾️SE/旧式の銃声が3発

「遅くなりました」

「おまたせ」

「ども」

「ルイ!タクミ!トシカズ!それにコウシ!」

床に倒れた兵士を、開いた穴に蹴落とす。

そこへマミとカズオも駆けつけた。


「クリア!」

「館内の敵は完全排除しました!」

「ごくろうさん。

あ〜あ。やっと死んだじいさんに会えるかと思ったのに」

「冗談はやめてください。

結婚したこともないのに。

それで、これからどうするんですか?」

「決まっとるじゃろ。今度はこっちから乗り込むんじゃ。

シンギュラリティのアジトへ」

「アジトがわかったんですか?」

「さっき、八咫烏のサカキバラから連絡が入った。

あいつ、やつらの痕跡を辿って、必死でアジトを見つけたんじゃよ。

仲間の弔い合戦がしたいんだと」

「介護車両を全車両、準備します!」

「みんな!覚悟はええか?

自分の葬式と永代供養の準備もできてるか?」

※全員の声

「おお〜っ!!」

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