空と海の平行線(2024年7月)

ボイスドラマを聴く

ボイスドラマの内容

設定

  • 主人公(エミリ)=16歳の高校1年生。母親の再婚で名古屋から高浜へ。この春から高浜の高校へ入学した。人と付き合うのが好きじゃないので部活もしない予定だったがなぜかボート部に入ることに・・・
  • 友だち(ウミ)=18歳の高校3年生。高浜生まれ高浜育ち。高浜の中学から系列の高校へ入学した。明るくてリーダータイプ。ボート部のキャプテンだが、部員は4名。なんとか高校最後の年にレガッタ大会に出ようと必死で部員を勧誘するが・・・

<シーン1/高校の入学式>

■SE〜入学式の雑踏

わぁ、やっぱ入学式ってみんな来るんだー。
あたりまえか。

高浜って田舎だからもっと少人数かなって思ったけど。

名古屋と変わんないなー。
海風が薫る大自然の中の入学式。
って、夢見すぎ?

あ、でも、思ってた海じゃない。
これ海?川じゃない?
高浜っていうから、高台から見下ろす白い砂浜とか想像してたのに・・・

はぁっ(※ため息)

ママが再婚して名古屋から高浜へ。
私、1人で名古屋に残りたい、って言ったら絶対だめだって。
ママだって、コブつきより、2人っきりで新婚生活楽しんだほうがいいじゃん。

まあ、考えても仕方がない。
これから3年間ここで過ごすんだし。
私なりに田舎生活エンジョイしようっと。

ほお〜、クラブの勧誘すごいなぁ。
なるべく目を合わさないようにして・・・
私、決めてるもん。
高校3年間、帰宅部で通すって。

「はい・・・」
あ、やばっ、反応しちゃった。

「あー無理です無理です。私体弱いし・・・」

「それに家の手伝いもしないと・・・」

え?
おお〜っと。
私の推しの声優の写真が。
しかも直筆サイン入り?

「そそそ、それ、もらえるんですか?」

言ってもうたぁ。
悪魔のささやきにのったらあかんやん・・・

にしても、高校の部活勧誘が、こんなネットショッピングみたいなコトやるかぁ・・・

「あ、待って」

結局、誘惑に負けてしまった。
推しの写真を両手でかかえながら、家に帰ってからふと思う。

で、何の部活だったっけ?

<シーン2/部活初日から大会まで>

■SE〜波の音

「ボート部〜〜〜〜〜〜!?」

ボート部ってなに?
公園とかにあるスワンボートでのんびり過ごす・・・
なワケないよねえ。

えええええええ〜?

手漕ぎボート〜?

無理無理無理無理無理無理無理無理
1ミリも考えてなかった。
ほら、見てよ。
私、こんなに華奢だし、美白のために紫外線禁止令でてるし。

そんな私におかまいなく、キャプテンの3年生、ウミは笑顔で語り出す。

ク、ク、クォードってなに〜?

知らなかったけど。
4人1列になって、1人が2本のオールを漕ぐ編成なんだって。
で一番後ろにコックスという操舵手が加わって5人・・・

ちょっと待って。

じゃあ、私もいきなり競技に出るってこと〜!?

う・・・
なんか、ツボ抑えるの、うまくない?

それからの展開は早かった。
だって、市民レガッタ大会まで、たった3か月しかないんだもん。

ボートやオールの持ち方、キャッチ、ドライブ、フィニッシュ・・・
レガッタの基本をゼロから覚える。

毎日のトレーニングは厳しかった。
そりゃそうよね。
いままで堕落した生活でなまりまくった体なんだから。

早朝トレーニングに夕方のランニング。
みんな、私を一番前に走らせるんだけど、すぐにバテて脱落する。
授業前の腹筋なんて、朝ごはん全部戻しそう。

早朝から日が暮れるまでずうっと家にいない私。
ママなんて、娘が気をつかって帰ってこない・・・
って思ったのか妙に優しくなっちゃった。
別に、ママのカレシ・・・じゃなくて旦那さんのこと、
避けてるわけじゃないのにな。

部活、いつも夕方にはヘロヘロになるんだけど、
ひとつだけ気に入ってるものがある。

衣浦の海に沈む夕陽。

これって海?
って最初思ってたけど、黄金色に輝く海は言葉にできないほど美しい。
潮風に吹かれて高浜川の堤防を走ると
目の前には空と海が細長い平行線を描く。
まるで海の中へ夕陽が溶けていくような感覚。

このときだけは、疲れもどこかへ行ってしまう。

季節はあっという間に入れ替わっていった。

筋力トレーニングとランニング中心の陸上(おか)からウォータートレーニングへ。
ボートに乗って、キャッチ、ドライブ、フィニッシュ、リカバリー。
スプリント練習からタイムトライアルまで。

気がつくと、次の日にあまり疲れが残らなくなっていた。
お風呂でお腹みたら・・・ちょっと、腹筋割れてない?
そういえば私、昔から力だけは人より強かったんだっけ・・・

<シーン3/市民レガッタ大会>

■SE〜波の音

「ごめんなさい。大会当日だっていうのに。
ゆうべ寝てる間にエアコンつけちゃったみたいで今朝起きたら、こんな・・・」

目の下クマで、鼻水ズルズル。
微熱もあるかも。

一瞬考えただけで、キャプテンのウミはその言葉を口にした。

え?

ウミは笑ってる。

「いや!」

自分でも驚くほど大きな声が響き渡った。

「棄権なんてしない。
私、途中で倒れたって絶対に出場する!」

「ウミさんの方が大事!」

目を潤ませて悲痛な表情で叫ぶ私。
ものすごい剣幕に押されて、ウミも折れた。

「はい!」

■SE〜波の音と観客の歓声

コックスがもっと強く漕ぐように檄を飛ばす。

選考予選はなかった。
なんだ、高浜の市民レガッタって申し込めばスルーで出られるのね。
いや、笑っている場合じゃない。
見渡せば、周りは強豪ばかり。
高校生のチームなんて私たちしかいない。

高浜川を空と海の平行線に向かってボートを漕ぐ。

私は体調のことなんて、完全に忘れ去っていた。

ウミは一番後ろのストロークシート。
ペースメーカーとしてみんなを支える。

私はその手前のサリーシート。
リズムを維持しながら力強く漕ぐ。
ああ、大丈夫だ。いつもの力は健在だ。
っていうか、いつも以上のパワーが溢れてる。

コックスから最後の掛け声。

私には周りを見る余裕などない。

いまこの世界に存在するのは私たち5人だけ。
心を一つにしてただオールを漕ぐ。

フィニッシュラインを超えた瞬間、達成感が全身を包んだ。
順位なんてどうでもいい。
ウミと抱き合いたい。みんなと喜びを分かち合いたい。

だが、私たちの耳に飛び込んできたのは、

■SE〜熱狂する大歓声(「おめでとう!」)

え?

私の名を呼んでウミが抱きついてくる。
顔をくしゃくしゃにして。

ほかのみんなも、言葉にならない声をあげて抱き合う。
いつまでも、いつまでも。

空と海の平行線が、いつも以上に黄金色に輝いていた。

<シーン4/2027年>

■SE〜波の音
■BGM〜エンディングテーマ

「うん。やるからには頑張る」

2026年、私とウミは、ロスへの切符をかけて選考委員会にのぞむ。
その前にほんの少しだけ、ふるさとのひとときを楽しんだ。

高浜の、細長い空と海の平行線を2人で眺める。
あの日と変わらない夕陽が、私たちの顔を金色に照らしていた。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!