卒業(2026年3月)

卒業=終わりじゃない。
それは“はじまり”。

忘れてしまった大切な人。
それでも消えない想い。

ミサンガが切れた瞬間、物語は動き出す・・・

アニメ「いきびな」から2年後の世界を描く、続編です。

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ボイスドラマの内容

設定

  • ・ナギ/下村 凪(しもむら・なぎ)=ウミの友達・同級生/卒業後は高浜を離れて東京で美容師に
  • ・ソラ/神谷 蒼空(かみや・そら)=高浜市内の高校へ通う高校3年生/いまは存在しない

[プロローグ:ウミの悪夢】

◾️SE:夢の中のイメージ

「しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は・・・」

「ソラ、ヒメの男雛になっちゃイヤ〜!」

ハッ・・
また、あの夢だ。

ソラ、ってだれ?
ヒメって・・・?

やだ・・
また涙が・・・
なにがなんだかわかんないのに・・・

春が近づいてきたら、毎晩のように見る夢。

私はどこか知らない不思議な世界にいて
だれか知らない人の名前を呼ぶ。

なぜか懐かしいような・・・
忘れちゃいけないような・・・

もうすぐ高校卒業なのに。
こんな不安定な心のまま卒業して大丈夫かなあ。

私の名前はウミ。

フルネームは、蒼井 侑海。
吉浜にふさわしい名前でしょ。

卒業後の私は、鬼師。

いや・・正確に言うと、鬼師を目指して、三州瓦の製造工場で働く予定。

お父さんは、地元の自動車関連の企業を紹介してくれたけど・・・
私、どうしても鬼師になりたくて・・
って言うより、ならなくちゃいけない気がして・・

お父さんだけでなく、お母さんもおばあちゃんもびっくりしてた・・・
なんで?
どうしてそんな大変な道を選ぶの?・・って。

私にもわかんない。

だけど、なんとなく思うんだ。

”鬼師”って単なる製造業じゃない。
”守り神”を、”守護神”を作る、神聖な仕事。

”魔除け”
魔を退(しりぞ)ける力が欲しい・・・

そんな思いが、なぜか心に湧き上がった。

”なにかを取り戻したい”

漠然とした意識が私の人生を動かしていた。

[シーン1:放課後の人形小路】

◾️SE:人形小路の雑踏

「ウミ〜、お待たせ〜!」

「はあっ、はあっ、はあっ・・・」

同級生のナギが、息を切らして走ってくる。

学校帰りの人形小路。
街は雛めぐりのイベント準備に忙しい。
細工人形たちがあちこちに並んでいる。

「ごめ〜ん、だいぶ待ったよね?」

「ううん、全然。
細工人形見てたから」

「好きだねえ、細工人形が」

「うん、なんか、ずうっと見ていたい感じ」

「そうかいそうかい。
あ、ひょっとしてウミ、そういう感覚?」

「なにが?」

「聞いたよ。
鬼師になるんだって?」

「あ・・」

「あんた、自動車関連の会社に内定してたんじゃなかった?」

「うん・・・」

「びっくりしたけど・・すごいな」

「どうして?」

「うち(※平板)にゃ絶対できないよ。
こんな卒業ギリギリのタイミングで内定蹴るなんて」

「そうだね」

「で、結局どうしたの?」

「最初はどうしたらいいかわかんなくて。
とりあえず
三州瓦のメーカーに行ってみたの。
そしたら、ちょうど欠員が出たから採用してくれるって」

「はぁ〜ん」

「正社員じゃないけどね」

「そこで鬼師になるの?」

「ううん。
高浜市内に鬼師のグループがあるの。
お休みの日に、そこで勉強させてもらうんだ」

「ひえ〜。
やっぱ、あんたすごいよ」

「そんなことないって」

「ないことない。
だってウミって、そもそも文系じゃない」

「そうだけど・・」

「何度も言うけど、私にゃできんね」

ナギは相変わらず、明るくっていいな。
放課後の帰り道が楽しいのはナギのおかげ。

だって私、ナギがいなかったら、
ひとりで帰らなきゃいけなかったもん。

ひとりで・・・

あれ?
ナギと友だちになったのって一年前・・・
それまで私、いつも一人で帰ってた?
私の横に・・・
誰かいたような・・・

「どしたの?ウミ」

「なんでもない。
あ・・」

「ん?
なに?急に立ち止まって」

「この人形・・」

「男雛のこと?
これ?
一番館のおっきな雛壇に飾ってある・・」

「うん。
なんか・・顔が変わってきてない?」

「なに言ってんの。
ホラーかって」

「だって、見るたびに、だんだん人間の男の人みたいになってくるんだもん」

「あ〜、わかった」

「なに?」

「この男雛、けっこうイケメンだもんね〜。
ウミ、実は隠れイケメンフェチなんだ〜」

「違うって。
この男雛、知っている人の顔に似てるの」

「ええええええ!
聞き捨てならん!誰よ〜?」

「わかんない。
誰だろう・・・」

「おい、会話になってないぞ」

「そだね。
ごめん、ナギ」

「好きな男子ができたら、ちゃんと正直に言うんだぞ」

「わかってるって」

「よし、じゃあ許してやろう」

自分でもよくわかんない。
どうしてこの男雛のこと、こんなに気になるんだろう。
誰に似てるんだろう。
頭の中にもやがかかって気持ち悪い。

そのとき一瞬、男雛の横に座る女雛に、睨まれたような、気がした。

[シーン2:卒業式を終えて/高浜港駅】

◾️SE:高浜港駅の雑踏

「ナギ、卒業おめでとう」

「なぁに言ってんの〜
お互いにおめでとう、でしょ」

「だって、ナギは卒業したら、高浜を離れるんでしょ」

「そうよ〜。
だから今日、こうして付き合ってもらったんじゃない」

「どういうこと?」

「うち、明日からもう、東京の寮に入るんだ」

「え?」

「だから、今日が最後の高浜。
最後の日は、やっぱウミと一緒じゃないと」

「そんなぁ」

「やなの?」

「なわけないじゃん。
知らなかったから・・」

「だってなんか湿っぽくなるのやだったからさ」

「ナギ・・」

「ほらまたそういう顔する・・」

「だって・・」

「ウミ、卒業式でもボロ泣きしてたもんねぇ」

「知らない」

「今日は、一緒に高浜を歩いてくれる?」

「高浜を?」

「だから高浜港まで来たのよ〜」

「そっか」

「さあ、いっきましょ〜。
まずは鬼広場を通って、鬼みちよぉ〜」

「おっけ」

「ぜ〜んぶ目に焼きつけとかなきゃ」

私たちは、行く先々で写真を撮った。
持っている自撮り棒で2ショット。

鬼みちを歩いて、かわら美術館へ。
瓦製のシャチホコの前で変顔ポーズ。

山を登れば、頂上には大きな観音さま。
焼き物の観音様では日本一高いんだっけ。

衣浦観音の下で、トリック撮影。
手のひらの上に観音様を乗せるナギ。

あれ?
このコース、前にも誰かと来たような・・
いつだっけ?
だれだっけ?

いや、高浜に住んでるんだもん。
1回や2回は来てて当然よ。

でも、そうじゃなくて、誰かと・・・

あ〜、思い出せない。

それから少し歩いて、大山緑地公園へ。

「あぁ〜。
大だぬきも見納めじゃのう」

「あれ焼き物のたぬきじゃ日本一だよね・・・」

「高浜は日本一が多いんじゃのう」

「え?」

「どした?」

「いま、なんて・・?」

「なんも言ってないし。
ちょ〜、ウミ〜、
あんた、異世界にでも行っちゃったんじゃね?
帰ってこ〜い」

「え〜、なんだろう・・」

「もういいから。それより行くよ。
あそこへ」

ナギは嬉しそうにどんどん走っていく。
やがて、目の前に広がったのは・・・

「ああ〜よかったぁ〜。
千本桜。間に合って」

「満開だね」

「これ、ホントに千本あるのかなあ〜」

目の前に広がる、淡いピンクの森。
花びらが雪のように舞う。

桜吹雪の向こう・・・
一瞬、誰かが横切ったような・・気がした・・・

「ねえ、ナギ。
いま・・・」

「ん?なに?」

「ううん。なんでもない」

「人が少なくてラッキー。
いまのうちにゆっくりお花見しよ」

「うん」

「あ〜気持ちいい〜」

本当に気持ちよさそうにナギが深呼吸する。
私たちが座ったのは、3人がけのベンチ(※あったっけ?)。
あたりは降りしきる雪のように、淡いピンクに包まれていった。

[シーン3:高浜芳川緑地多目的広場】

◾️SE:静かな波の音

「相変わらずほっそい海〜。
これももう見納めかぁ」

大山緑地から、海岸線へ(※ここ合ってますか?)。

ゆっくりゆっくり歩いて、私たちは芳川緑地へ。
空は静かに、オレンジ色のグラデーションを描き始める。

「ほら見て。
対岸の東浦でも、卒業生?かな・・
JKたちがこっち見てるよ」

「東浦のみどり浜緑地だよね」

「お〜い!」

ナギが対岸に向かって大きく手を振る。
あ、向こうもこっちに気づいたみたい。
笑いながら手を振っている。

「対岸のある海って・・・なんか笑える」

「そだね。
空と海の平行線」

「高浜だけの風景。
絶対忘れない」

ナギはふっと寂しそうな笑顔になって、振り返った。

「さ、帰ろっか。吉浜へ」

「うん」

「いつも歩くの、だりぃ〜って思ってたのに、
今日はあっという間に着いちゃう」

私たちは県道から吉浜駅へ向かう。
名鉄の赤い電車が小さく警笛を鳴らして通り過ぎていく。
ナギはそれにも手を振る。
夕闇が静かに迫っていた。

[シーン4:吉浜駅周辺〜人形小路】

◾️SE:吉浜駅前の雑踏

「ねえウミ、あんたそのミサンガどうしたの?」

「ミサンガ?」

「左手の」

「あ・・・あれ・・?
ミサンガだ・・
私、いつからしてたっけ・・・」

「ってか、それ、もう切れかかってんじゃね?」

「ホントだ・・
でも私、ミサンガなんて、全然記憶にない」

「やめてよ、なんか鳥肌立ってくるじゃん」

ナギはおどけて私をからかう。

「だけど、切れたら願いがかなった、ってことかもね」

「もういいよ、ミサンガの話は・・
ね、ナギ、明日の電車何時?」

「なんで?」

「見送り、行くね」

「こなくていい」

「え?」

「ウミが見送ってくれたら、あたし本当に泣いちゃう」

「そんなぁ」

「ここでお別れしましょ」

「え?ここで?いま?」

「今までありがとうね、ウミ」

「ちょっと待ってよ」

「手をだして」

「手?」

「いいから」

ナギは私の手をぎゅっと握って、私の瞳を見つめる。

「今までありがとう」

「ナギ・・」

「あ〜JK楽しかった〜!」

そう言うと同時に、握った手を素早く離す。
ナギはそのまま振り返らずに、
家の方へ向かって歩いていった。

と同時に、誰かが私の方へ歩いてくる。
夕闇の境界線に立って、淡い光を纏った人影。
あれは・・・

「しのぶれど 色に出でにけり わが恋(こひ)は
ものや思ふと 人の問ふまで」

名前が口元まで出かかる。
なのに、なにか術にかかったように・・やっぱり思い出せない。

その瞬間、人の姿をしていたものは、陽炎のように溶けていった。

私にはやっと理解できた。

どうして鬼師になろうと思ったのか。
なにをしようと思っていたのか。

それは、あなたを取り戻すため。

私たちを守る守護神を作り出すため。

あと何年かかるかわからないけど、待ってて。
ソラ!

名前を呼んだ瞬間、左手首から、ミサンガがぷつりと切れて地面に落ちる。
それは、”魔”と戦う決意をした私の、宣戦布告の合図だった。

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