人形の家(2024年4月)

ボイスドラマを聴く

ボイスドラマの内容

設定

  • 主人公・・・中学2年生の女子。父の都合で4月から高浜へ引越し、転校してきた。内気で陰キャでコミュ症。徹底的に人見知りするのに、心の中は厨二病という厄介な性格。

<シーン1/名鉄吉浜駅前>

■SE〜名鉄吉浜駅のガヤとアナウンス「ヨシハマ〜ヨシハマです」

「吉浜・・・
高浜じゃないの?」

ママが優しくさとすように説明してくれる。
そっか。

吉浜ってのは、高浜にある町なんだ。
そこに私たちの新しい家がある。

■BGM〜

私は中学2年生。
この春、茨城県のつくばから引っ越してきた。

年が明けたらパパがいきなり会社辞めるって宣言するんだもん。
あ、パパの仕事はIT企業の研究室。

辞めてどうするのか、って聞いたらパン屋さんをやるんだって。

ママも私も”え〜〜〜〜〜〜”って感じ。
それだけじゃない。つくばから地方へ移住する〜!?
しかもこんな聞いたこともないような、愛知県の高浜市ってとこに。
パン屋さんなら、つくばでやれよって。
『パンのまち』なんだから。
もう激おこ〜。

ってことで、私も転校。
まあ、そもそも私、
陰キャで、コミュ症で、しかも厨二病だから友達いないんで
別に全然いいんだけどさー。

ワンチャン、新しい学校で友達できるかも。
無理か。この性格じゃ。

■SE〜軽トラックのエンジン音

吉浜駅前のロータリー。
パパが軽トラックから降りてくる。
これで家まで送るって?
トトロかっちゅうの。

あの看板。
人形小路(こみち)?

吉浜は人形のまち?
そうなんだ〜。
私、急な引っ越しだったから、つくばのお家に
お人形さんみんな置いてきちゃったもんなあ。
小さい頃からいわば私のイマジナリーフレンド。
コミュ症の私は人形に囲まれていれば幸せだった。
寂しいな。

高浜のこと、SNSで検索してみるか。
『ハッシュタグ高浜』っと。
ふんふん。あんまり出てこないー。
人形小路 雛めぐり?なんじゃ?
子供たちがお雛さまになってる。すご。
ひな祭りの日にやってたんだ。
あとは・・・
人形小路花まつり。5月か。
こっちにも人形。
高浜、ってか吉浜は本当に人形の町なんだなー。

<シーン2/新居(吉浜市内)>

■SE〜扉を開ける音

なんてことを夢想してるうちに、新居に到着。
新居っちゃ新居なんだけど、ぶっちゃけ古民家。
古民家好きなパパがネットで探し回って購入した。
以前は人形師が住んでいたらしい。
人形師ってなに?
人形を作る職人かあ。
ちょっと興味あるかも。
しっかし、すごい埃。
掃除だけで1日終わっちゃうよ。
ママは食卓の埃を払ってさっと水拭きするとパソコンを開く。
そっか。
マーケターって、パソコンさえあればどこでも仕事できるんだ。
だからママ、引っ越しするのに抵抗ないのか。
あ〜あ、これから大丈夫かなあ。
転校の手続きはパパがしたって言ってたけど。
黒板の前でするアレ。自己紹介。
やだなあ。憂鬱だなあ。

その晩、私は夢を見た。

誰かが私に話しかけている。
『お願い』
『私を見つけて』

え?
だれ?
どこにいるの?

姿もなにも見えないけど、小さくてか細い声。

『私、ここだよ』
『お願い』

暗くて何も見えない。
私は手探りで闇の中をまさぐる。
だが、虚しく空(くう)を切るばかり。
もがきながら、いつしか眠りの底へ落ちていった。

<シーン3/学校>

■SE〜通学のガヤ

翌日。
眠い目をこすりながら学校へ。

通学路の途中にある青い看板。
交通標識みたいな駅の看板みたいなこれ、なに?
案内看板?だよなー。
ひらがなで『ほしみち』・・・?
その下には2つの中学校の名前。
1つは私が今から向かう中学だ。

しばらく立ち止まっていると、ほかの子たちが遠巻きにちらっと見ながら通り過ぎる。

あ、いつものやつだ。

だめだめ。
目立っちゃ。
足早に青い看板の前から立ち去る。

『お、おはようございます』
『つ、つくばから転校してきました・・・』

”全然聞こえないね”
”つくばってどこ?”

小さい声でみんなが囁いている。
あー、時間よ、早くすぎて〜。

■SE〜学校のチャイム

私にとって、長い長い6時限が終わり、校舎を出るころにはもうヘトヘトだった。
こんなんで明日からまた大丈夫かなあ。

<シーン4/新居の部屋>

次の日も同じ夢を見た。

『私を見つけて』

私は意を決してベッドから起き上がる。
懐中電灯を持って2階から1階へ降りていった。
まだ見ていない部屋とかあったっけ?

この家、その名の通り古い民家だから蔵みたいな物置みたいな建屋があるのね。
パパは人形師さんの工房だって言ってたけど。

ちょっと怖いけど、好奇心の方がまさった。
その建屋には廊下でつながってるから扉をあけて入っていく。
やっぱ怖いからすぐに電気をつける。

雑多に置かれた引っ越しの荷物。
荷解きしていないのがまだこんなに。
壁一面には天井まである大きな棚。
あれ?
棚の向こう側。
ダンボールに隠れてるけど、小さな扉?
どけたら入れるかな。

小柄な私なら大丈夫そう。

どうしよう?
う〜ん。ここまできたらやるしかない。

扉を一気に開けて、懐中電灯で照らす。
・・・と、あった。
私の膝くらいまでの木箱。

恐る恐る蓋を開けると、中にはなんと・・・
美しい絹の布に包まれた人形!
これ、ビスクドール?
ううん、違う。

西洋人形じゃない。
よく見ると陶器じゃなくて、木だ。
木製なのに、精巧な顔立ち。
びっくりするくらい綺麗で可愛い女の子。
これも昨日パパが言ってた細工人形っていうのかしら。

あなただったの?私を呼んでくれたのは。

私は瞳の美しさと表情に時間がたつのも忘れて見入ってしまった。
自分の部屋に人形を連れ帰り、枕元に置いて眠る。
おやすみなさい。
夢の中でお話できるといいな。

眠りに落ちると、今度は荒唐無稽な夢物語が始まった。
その人形の名前は小町。
菊人形を作るときに、余った木材で人形師に作られた。
作り方は菊人形や細工人形と同じ。
だから表情もきめ細やか。
実は同じように作られた人形たちがまだ何体もいるという。
私は、ダンジョンになっている工房で、人形師が残した手紙や記録を探し出す。
彼が作った人形にはそれぞれ物語が込められていた。
小町を抱っこして町へ出る。
人形小路を巡りながら、人形を探す冒険が始まっていく。
小町は、笑顔で私に話しかけた。

『ありがとう』
『君は優しいから、友達いっぱいできるよ』
『吉浜のこと、高浜のこと、人形のこと。もっともっと好きになってね』

<シーン5/学校の教室>

■SE〜学校のチャイム

次の日、学校へ行ったら奇跡が待っていた。
いや、正確に言うと、私にとっては奇跡。
クラスの同級生たちがいきなりメアドの交換をお願いしてきた。

え?なにか裏があるんじゃない?

疑り深い陰キャは、なかなか奇跡を信じられない。
そんな私の前で、彼女たちは口々に、

”みんな、口ベタなんだよ”
”本当はもっと早く友達になりたかったんだけど”
”わからないことあったらフツーに聞いて”

そうか。
きっと私、いつもうつむいて暗い顔してたし。
誰とも視線合わせないようにしてたし。
授業終わったらソッコーで帰ってたし。

これじゃ、いつまでたっても友達なんてできないよね。
でも、そんなこと。
高浜にくる前からわかってた。
わかっててもできなかったんだ。

こんな風に思えるのって、なぜだろう?

あの人形?小町?
いや、そんな。
でもなんだか、今日の私。
今までとテンションが違ってる。

だけどわかった。
高浜で私の最初の友達は、小町。
そしてこれからは、クラスのみんながきっと友達になる。
驚くほど確かな思いが胸の中を通り過ぎていった。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!