ソウルフード(2024年5月)

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  • 主人公・・・25歳のOL。18歳で高浜を出て東京の大学へ。そのまま東京のデザイン会社へ就職。自分のデザインの人気が出てくるにしたがって仕事も増え、忙しさに押しつぶされそうになっている。そんなある日、会社でうたた寝して気がつくと、そこは15年前の高浜、自宅だった・・・

<シーン1/東京のデザイン事務所>

■SE〜電話のコール音

「はい、もしもし。
あ、おつかれさまです。
え?ロゴのデザイン?はあ。
初稿出しはいつですか?
えつ、えええええ〜そんな〜無理ですよ〜」

今日もまた眠れない・・・
なんかこの状況。
まるで昭和のブラックな時代みたいじゃない。

私はグラフィックデザイナー。
3年前に東京の美大を卒業してこの道に進んだ。
その前、高校卒業までは、地元・高浜。
あ、タハマだっけ。
7年も離れると、ふるさとのアクセントも忘れちゃうんだ〜。
私って、薄情〜。

心のままに描いてきたデザインが、なぜかクライアントにウケていまやこの状況。
会社は働き方改革があるから「残業禁止」なんて言うけどさ。
私のデザインが気に入って頼んでくれるとこにはつい頑張っちゃうじゃん。

とはいえ、3年間ずうっと突っ走ってきたからなあ。
ちょっぴり疲れたかも・・・

いまの電話は先輩。
っていうか直属の上司?
いまどきのかっこいいデザインがめっちゃ得意なデザイナー。
なのにクライアントとの打合せにもほぼ全部顔を出してる。

私には無理だなあ。
そもそも人と話すのは、あんま得意じゃないし。
デザイナーになったのも天分だと思ってる。
だって、自分の世界の中でできる仕事でしょ。

新規の案件は、お茶屋さんのロゴと店舗デザイン。
最近お茶とかお抹茶って若い子に人気だもんなあ。
あは・・・若い子って。
私だってまだまだ若いじゃん(笑)

インスタで流行りのお店とか事前に調べとくか。
あ、だめだ。
オシャレで可愛いお店の写真をスクロールしているうちに瞼が・・・
あ〜。まいっか、少しくらい・・・

<シーン2/15年前の高浜(実家)>

■SE〜食卓/料理を作る音

『休みだからって、いつまで寝てるの。
もうお昼よ。
食べるでしょ、とりめし』

え・・・
ママ?

なんで?
ここは?
私、会社でうたた寝してたんだっけ・・・

『ご飯食べたら、お友だちと花まつり、行くんでしょ』

ここ高浜〜!?(地元アクセント=第二音)

それに私・・・ママよりちっちゃい!
子どもじゃん!

「ねえねえ!ちょっと!ママ」

『なあに、そんなあわてて』

「いま何年!?」

『なに言ってるの、へんな子ねえ』

「いいから教えて。今日は何年何月なの!?」

『平成21年5月でしょ。
朝自分で日めくりめくったじゃない』

平成21年!2009年。
15年前だ。

これって、夢?

いや、そうじゃない。
だって、すごくいい匂いが・・・

『おかしなこと言ってないで、とりめし、食べなさい。
冷めちゃうわよ』

あ、お腹が・・・

■SE〜お腹がぐう〜っと鳴る音

『お昼寝して。お腹すいて。とりめしたべて。
幸せな人生だこと(笑)』

「とりめし、食べたい・・・」

『どうぞどうぞ』

■SE〜鶏めしを茶碗によそう音

「あ〜美味しそうな香り・・・
いただきます」

美味しい。

味がしっかりしみ込んだご飯。
薄くスライスして柔らかく煮込んだ鶏肉。
そうだった。
この味。

うちのとりめしは炊き込みごはん。
戻した干し椎茸と(ごぼうと)にんじん、油揚げの旨みをとじこめて、炊き上げる。

何年ぶりだろう。
よく考えたら、もうずうっと食べてない。

こんなに美味しかったのに。

『ちょっと。あんた、なに泣いてんの?』

え?

あ、ホントだ。
全然気づかなかった。

「ねえママ」

『なに』

「おかわりしていい」

『あたりまえじゃない』

「とりめしって、どうしてこんなに美味しいんだろ」

『かくし味よ』

「へえ、知らなかった。なに?」

『愛情』

一瞬、言葉につまった。

そんな、平成みたいなネタ・・・
って平成か。

『それより、こんなゆっくり食べてていいの?
花まつり、行かないの?』

ああ、そうか。

今日は花まつりの日なんだ。
懐かしいな。
きっとキレイだろうな。
いつだって、目が覚めるほど艶やかだったもんなあ。
でも私・・・

「いかない。
ずっととりめし食べていたい」

『なんなの、それ』

ママ、このままずっとここにいたい。

だってここは、高浜は、私の家なんだもん。
こみあげてくるもので、顔をくしゃくしゃにしながら私はとりめしを食べ続けた。

ママはもう何も言わず、私を見ながら微笑んでいる。
ああ、本当に美味しかった。

『残りはおにぎりにしておいとくからね』

とりめしのおにぎり・・・
お腹いっぱいでも食べられるよ。

お腹が膨れて、同時に泣き疲れて、
気がつくとまた、まぶたがくっついていく・・・
ママ・・・

<シーン3/再びデザインオフィス>

■SE〜オフィスに人が入ってくる音

『夜食、買ってきたぞ』

え・・・

いまのは夢?

ううん、夢じゃない。
突っ伏した腕が涙でこんなに濡れてるもの。

あわてて、トイレに駆け込み、目元を整える。
手短にすませて席に戻ると

「私、お先に失礼します」

きょとんとした同僚たちに私は笑顔で挨拶した。

急ぎ足でオフィスを出る。

スーパー、まだ開いてるよね。

<シーン4/自宅近くのスーパーマーケット>

■SE〜スーパーマーケット店内の環境音

いつもの惣菜売り場は素通りして野菜売り場へ。

干し椎茸、ニンジン、あぶらあげ。
そして、鶏肉。
醤油と砂糖はきれてなかったはず。

今晩くらいは自分で作ってみよう。
鳥肉を薄く切って
椎茸(ごぼう)、ニンジン、あぶらあげと一緒に炊き込んで。
こんな夜更かしならいいじゃない。

今度の休みは、久しぶりに帰ろうかな。
高浜へ。

ママのお墓まいりいかないとね。
報告することいっぱいあるんだ。

今日はママのとりめし、再現してみるから。
小さい頃からレシピ、教えてくれたもんね。

いつも心配してくれてありがとう、ママ。
私は元気だよ。

愛してる。

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