ひいなの目覚め(2025年3月)

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  • ルイ(34歳)CV:山崎るい=名古屋市内の大手デパートで企画広報部長をつとめる。ストイックで仕事熱心な彼女のことを部下たちは影で”鉄の女”と呼んでいる。高浜市出身だが忙しくて年末年始も帰省できていない

<シーン1/1995年3月:高浜市の雛めぐり>

■SE〜子供雛行列の賑わいジリと音を立てる

「行ってきまーす!」

艶やかな装束に身を包んだ少年少女が、町を練り歩く。

あれは今から30年前。
8歳の私は、十二単を身に纏い、こども雛行列の先頭を歩いた。

こども雛行列。
高浜市吉浜地区で毎年おこなわれている伝統行事。
姫、殿、官女、五人囃子、右大臣,左大臣、3人の仕丁の15人が
縦一列になって吉浜の町をゆっくり進んでいく。

両親の思いを背負って、私は”いきびな”になった。
第一回目のこども雛行列。
この日の光景は、いつまでも記憶から消えることはないだろう。

<シーン2/2025年2月:名古屋市の有名デパート企画広報室>

■SE〜会議室の雑踏

自信満々でエミリがプレゼンする。
エミリは、私の部下。
名古屋市内の大手デパートにある企画広報室が私たちの職場だ。
今日は、月1回の企画会議。
10階に設けられた催事フロアで毎月季節に合った特別展を開いている。
今年からエミリが中心となってその企画をプロデュースしていた。

「具体的には?」

「ふうん。それから?」

エミリは部長の私に臆せず、毅然とした態度で提案する。
ほかのスタッフはエミリより年上が多いけど、
結構みんな私に距離を置いてるのよね。
そりゃまあ・・
34歳。独身。企画広報部長。スキルも実力もあってストイック。
って先入観があるからしかたない。
いまだにおひなさまに憧れを持つ精神乙女だなんて
誰も想像だにできないだろうし、ふふふ。

「なるほどね。で、あとは?」

「うん。いいんじゃない。美味しそうだし。
でも、ちょ〜っと引っかかるのよね」

「今回の催事は3月になってからがメインでしょ」

「テーマがおひなさまだと、
時期的にほかのデパートがやりつくしちゃってるんじゃない?」

「え?」

「たいせつなこと?」

「そっか」

「桜?」

「・・・わかった。いいよ」

「そもそも福よせ雛っていうのは、おひなさまだけじゃなくて
五月人形も入れていいんだから」

「じゃおひなさまと桜をテーマにとりいれましょ。
私からも補足案出していい?」

「まずパネル展だけど。例えば、喜多川歌麿の「雛祭り」なんて
借りられないかしら。
私、東京国立博物館に友達がいるから聞いてみるわ」

「別に特別なことじゃないわ」

「そうそう。
東京・長命寺と大阪・道明寺の桜餅食べ比べ!なんてよくない?」

「いいわ。でも、ありきたりのお花見スポットじゃ差別化できないわよ」

「私も付き合うね」

エミリって、裏表がないのよねえ。
上司が残業に付き合うのって嫌がる子、多いんだけど。
マーケターとしていいセンス持ってるし。
だからこそ私、そこそこ厳しい上司の顔で接してるの。うん。

<シーン3/2025年2月:会議のあと>

■SE〜カフェの雑踏

「ルイでいいわよ、エミリ」

「こっちこそ、ごめんね。会議のあとまで付き合わせて」

「またまた・・・で、お花見の候補地、いいとこありそう?」

エミリは自分のスマホからカメラロールを開く。

「見せてもらっていい?」

エミリは私の目の前にスマホを置いて、スワイプしていく。

「え、ちょっと待って」

「1つ前の写真・・」

「それって・・」

「千本桜!?うそ・・・」

「だって、高浜は私の実家・・」

「私は吉浜だけど」

「吉浜なの!?それじゃあ・・」

「え・・」

「どうして・・」

「そんな・・」

「ああ、そうか・・。
それでおひなさまのことをあんなに考えてたのね」

「そうね・・
だって、おひなさまは、私にとって特別な存在」

「実は私も小学校に入った年、こども雛行列に参加してるのよ」

「だけど、もう20年以上帰ってない。
昨日も姪っ子からLINEがきたんだけどね。
こども雛行列に参加するから見に来てほしいって」

「だぶんね。
でも即答で、無理だって断っちゃった」

「千本桜に合わせて?」

「高浜へ!」「高浜へ!」
(※同時に)

エミリがいつもの愛くるしい笑顔を見せる。
2人の過去が不思議な交錯をして、いまの雛めぐりにつながっていく。
あの日のこどもたちの歓声がはっきりと蘇ってきた。

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