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- 主人公=40歳。高浜市の施設で働く女性。独身。「20歳のつどい」の準備に追われている。20年前二十歳のとき、大学生の頃は陶芸アーティストになりたいという夢を持っていたが、母親に反対されてあきらめた。そこから母との関係もぎくしゃくするようになり、当時付き合ってた陶芸アーティストの彼とも結局別れることとなってしまう。母とも反目し合ったまま、実家を出て1人暮らし。結局母の死に目にもあえなかった。それからの人生、自分的には「死なない程度に生きている」という感覚となる。ある日、横断歩道で自動車と接触しそうになっている老女を助けたとき、転倒して意識を失うと、目覚めたところは20年前の「成人式」だった・・・
<シーン1/2025年:いきいき広場の建物内>
■SE〜いきいき広場の環境音
「陶芸アーティストが祝辞ゲスト〜!?」
思わず、エキセントリックな声が出てしまった。
私は、高浜市の施設で働く職員。
今年は文化スポーツグループのお手伝いで「20歳のつどい」の開催準備を手伝っている。
まあ、高浜市なんだから、別に陶芸家が祝辞を述べたってなんの不思議もないんだけど。
いや実は私、20年前に陶芸家のタマゴと付き合ってたんだよね。
まさか、その彼じゃあないでしょうけど、ドキっとするじゃない。
この20年間で一番驚いたかも。
ビビったときのクセで、思わず目の上のホクロをさわる。
もう・・
ずうっと「死なない程度に生きて」きてるっていうのに。
とにかくもう、考えないようにしよう。
って言っても仕事だから、情報はどんどん入ってくる。
どうもゲストは、海外で地味に活躍している陶芸アーティストらしい。
で、高浜出身。そりゃそうよね。
■SE〜高浜港駅前の環境音(雑踏)
ふう〜。
外へ出て、深呼吸。
気分を変えようと、自販機でお茶を買ったとき、
ふと目の端になにかが映った。
横断歩道を高浜港駅の方から歩いてくる・・・おばあちゃん?
ちょっとヨタってるけど、大丈夫かしら?
考えるより先に足が動く。
そこへ、駅のロータリーから猛スピードで車が突っ込んできた。
「おばあちゃん!あぶない!」
■SE〜急ブレーキの音
とっさにおばあちゃんを庇い、地面に受身の姿勢で倒れる。
瞬間、目が合った。
あれ、このひと、どこかで会ったことあるかも・・ そう思っているうちに、意識が遠のいていった・・・
<シーン2/2005年:「成人式」直前の会場(衣浦グランドホテル)>
■SE〜公民館の環境音/「成人おめでとう!」の声
『大丈夫ですか?』
「はい・・・ありがとうございま・・」
えっ?
ここどこ?
高浜港駅じゃない。なんか、記憶にあるような・・
『歩けますか?』
「あ、ああ、はい・・・だいじょう」
「え・・・あなたは・・・?」
『はい、今から成人式なんです』
わ、わ、わたし〜っ!?
お気に入りの椿の振袖。
気が強そうな表情も、目の上のホクロも。
あ〜ホクロさわってるし。
ビビってんのか、私に!?
落ち着け。落ち着け。
かんばん。かんばん・・入口の看板。
2005年・・高浜市成人式?
え〜!?
じゃあここは衣浦グランドホテル〜!?
20年前にタイムリープしたってこと?
ボイスドラマじゃあるまいし。
『ホントに、大丈夫ですか?』
「今日、二十歳の集いなの?」
『いえ、成人式です』
そうか。
でもなんで?
私が20年前に召喚されたのはなぜ?
■SE〜ハイヒールの足音
と、そこへ駆けてきたのは・・
「ママ!?」
『ママ!』
『え?』
「あ、いや別に・・どうぞ」
『ママ、来なくてもいいって言ったでしょ』
『一生に一度の成人式?』
『ふん。成人式じゃなくたって、今日も明日も、一生に一度よ』
いや、2度目なんだけどな・・
そっか、私、20年前から、ママとうまくいってなかったんだ。
え?どうしてだっけ?
『私、成人式終わったら、彼の工房へ行くから』
『当たり前じゃない!だって陶芸家になるんだもん』
『冗談でもないし、寝ぼけてもない!』
・・そうだった。
私、短大出たら陶芸の道へ進もうと思ってたんだ。
『別に反対されたって、関係ないから』
そりゃ反対するよねえ。せっかく大学で介護福祉士の資格までとったのに。
それに、陶芸のセンスなんてまったくないでしょ、あんた・・・ってか私。
『とにかく帰ってよ。私、ひとりで式に出る』
あーあー。
さっさと行っちゃって。
しょうがないなあ。
なんか単なるわがままじゃん。ガキっぽい。
でも、これ、私の選択?
だった・・よね・・たしか。
残されたママ、どうしたんだろう。
え?
涙!?
やだ。やめてよ、ママ。
思わず、つい、声をかけてしまった。
「あのう・・」
『え?・・はっ・・』
「二十歳の集い・・じゃなくて、成人式の付き添いですか?」
『あ、はい・・』
つい声かけちゃった・・どうしよう。
『でも、ちょっと娘と言い争いしちゃいまして』
私のこと、気づいてないみたいだからいっか。
『お恥ずかしいところを』
「いえいえ、人ごとじゃないですから」
『あなたのお子さんも?』
「いや、私は独身なので」
『それじゃ・・』
「昔を思い出しちゃって」
『ああ。わかります』
「ホント?」
『ええ、私もここで成人式あげましたから』
へえ〜、ママもここで成人式挙げたんだ。
私がはにかむと、ママもだんだん笑顔になっていく。
『私、結構おませさんだったから、つきあってた彼のバイクで会場の中央公民館へのりつけて』
「うっそ!?知らなかった」
『そりゃそうでしょ』
「ですよね」
『成人式終わったら、そのまま温泉旅行へ行っちゃったんです』
「マジ!?」
『うん、いまで言うと冬ソナのヨン様みたいな感じ?』
うおお・・レジェンドの韓ドラ!
「で?で?その人とはどうなったんですか?」
『結婚しました』
「パパ!?
ってすごすぎ〜!・・・あ、でも」
『幸せは1年も続かなかったけど』
「交通事故・・」
『え?どうして知ってるんですか?』
「いえ、えっと・・たぶん事故かなあ〜って連想しちゃったんです」
『はあ・・そうですか』
「お辛いですよね」
『もちろん・・でも、彼がいつも言ってたことが心から消せなくて』
「え?
な・・なにを言われてたんですか?」
『娘はオレが絶対に幸せにする。
どんなささいな苦労だってオレがさせない。
将来は安定した職に就いて、しっかりした結婚相手もオレが見つける。
孫が生まれたら、オレが一番最初に抱く・・って』
え?
『・・あ、ごめんなさい。どうしたんだろ、私。
見ず知らずのあなたにこんな話を・・』
「いえ・・」
『え・・・どうしたんですか?』
「いえ・・なんか目にホコリが入っちゃって、木枯らしが」
『ふふ・・』
「なあに?」
『いえ、ごめんなさい。
娘がね、いつもおんなじこと言ってたなあって。
すっごい泣き虫なのに、負けん気だけ強くて』
「そうなんですよ〜」
ー2人の笑いー
『じゃあ、私、帰ります』
「え、なんで?」
『私がここでずうっと待ってたりしたら、うざいですもんね』
「そんなことないって」
『いいえ。ありがとうございます。あなたと話せてよかったわ』
「私も!」
『なんだか他人のような気がしないし』
「私も・・・」
<シーン3/2005年:「成人式」直後の会場(衣浦グランドホテル)>
■SE〜公民館の環境音/「成人おめでとう!」の声
結局、成人式が終わるまで、会場の前のベンチに座ってた。
知らなかった・・パパがそんなこと言ってたなんて。
ママ、私にはなんにも言わなかったじゃない。
それじゃあ、伝わんないよ。
きっとわかってたんだよね、私に陶芸のセンスがないこと。
自分の娘なんだから。
もう二度と会えないと思ってたママに会えて、私はいつまでも震えが止まらなかった。
■SE〜ハイヒールの足音
『あれ?』
「あ・・・」
会場から歩いてくるのは二十歳の私。
振袖の椿が揺れている。
『まだいらしたんですか?』
「そっか・・もうそんな時間」
『お身体、大丈夫ですか?』
「大丈夫・・・とは言えないかも」
『え?』
「成人式、どうだった?」
『よかったわ』
「このあとどうすんだっけ?」
『着替えてから、名古屋のクラブかなあ』
そっかそっかぁ。確かによく行ってたわ。
レギンスとかスキニージーンズ履いて。
パパがいたら泣いちゃうぞ、きっと。
『遅いなあ・・』
「着替えに行かないの?」
『あ、彼が迎えにくるんです・・』
「陶芸家の?」
『なんで知ってるの?』
「いや、それは・・」
『そっか、ママに聞いたのね。
あの人、赤の他人にペラペラペラペラと』
2人してもう〜。赤の他人じゃないんだけど。
『どうせ、ろくなこと言われてないんでしょ』
「そんなことないよ」
『どうだか』
「じゃいいわ。あなたも、陶芸家になりたいんでしょ」
『そ、そうよ。悪い?』
「ちゃんと自信あるの?
ライフプランちゃんと立ててるの?」
『自信なんてない。でも、そんなんママとかあなたには関係ない』
「私は・・関係ないかもしれないけど、ママとかパパには関係あると思うな」
『パパなんていないもん。
私が生まれたときに死んじゃったから、顔も知らない』
「いなくたって、心配してるでしょ。
私、えらそうなこと言える立場じゃないけど、一度、ママとちゃんと向き合ってみたら?」
『どうして?』
「考えてみたら私、ママと向き合って話したことなかったな、って」
『なに言ってるかわかんない。
ママなんてどうせ私のこと気に入らないんだから』
「そうじゃないって。
いなくなっちゃってから後悔しても遅いわよ」
『いなくなるわけないじゃない』
「うん。私もずっとそう思ってた。
でも、ストレスって大きな病気につながっていくの」
『大きな病気・・』
「家、出ていくつもりでしょ」
『え・・』
「いま飛び出したって、成功する確率なんてゼロに等しいわ」
『う・・』
「それより、彼ともきちんと話したら?
2人にとって、どうすることが最高の人生なのか」
『ふん。わ、わかったわよ・・・』
お、思ったより素直じゃん。
さすが、私。
■SE〜クラクションの音
彼だ。
『行くわ。
なんかイマイチすっきりしないけど、なんとなく言ってることは理解した』
「ありがとう。いい未来にして」
お願いだから・・
『あ、そうだ。最後に写真撮ってくれない?この振袖姿』
「いいわよ」
『そういや今日、一枚も撮ってないわ。すっかり忘れてた。
はいこれ、私のケータイ』
「お、ガラケー!」
『なにそれ?ガラクタケータイってこと?ひっど〜い』
「いや、違うし。
はい、いくわよ。ポ〜ズ!」
■SE〜ガラケーのシャッター音
『ありがとう。じゃあまたね』
「うん、幸せを選んでね」
二十歳の私を乗せた車が遠ざかっていく。
それを見送りながら、排ガスを吸い込んでしまった。
あっ、だめだ。頭がクラクラする・・・
<シーン4/2025年:「成人式」の会場(高浜小学校メインアリーナ)>
■SE〜いきいき広場の環境音/大きな拍手の音
え?
ここ・・・高浜小学校・・メインアリーナのエントランス・・・
そうか・・戻ってきたんだ。
2025年に。
ぼうっとした頭をシャキっとさせて、会場の入口で新成人を見送る。
そのとき、後から肩を叩かれた。
陶芸アーティストだ。
え?なに?祝辞ゲストって・・・?
海外で活躍する陶芸アーティストって・・あのときの彼だったの!?
アメリカの西海岸にアトリエを持ち、ヨーロッパの陶芸ビエンナーレに出展して・・
って、すごいな。
ただいま、って。
どういうこと?
私たち、まだ続いてるの?
喧嘩別れしたんじゃないんだ!
え?
そうか、いま、私も、陶芸をやってるんだ・・
市の施設で働きながら、陶芸も教えてる?
未来が・・変わったってこと?
■SE〜クラクションの音
誰?
まさか・・・
ママ!?
生きてる!
病気、大丈夫だったんだ!
ママのクルマに向かって走っていく私。
その私を見つめる視線に振り返ると・・・
人混みの中に、今朝助けた老女!
今度はヨロヨロせずにしっかり立ってるじゃん。
表情も心なしか優しい。
そうか。いま気づいた。
日差しを反射する瞳。彼女の顔。
皺がよって年齢を重ねているけど、よく見たら私とそっくり。
私と同じ笑顔で、私に向かって頭を下げる。
『ありがとう。40年前の私。
並行世界の中から最高の未来を選んでくれて』
高浜港駅を出発した電車がゆっくりと南へ走っていった。