KOMACHI(2024年11月)

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  • 主人公/M・I(エム・アイ)=14歳。中学2年生。普段は人見知りする大人しい女の子。しかしネット上では知る人ぞ知る大人気VTuber=バーチャルライバーの「KOMACHI」という顔を持つ。授業や試験の関係でホロライブは週1回程度しか配信できないが、半年に一回の生ライブパーティでは、歌って踊るKOMACHIはスパチャも一番多い超人気者である

<シーン1/夏の生ライブパーティ>

■SE〜LIVE会場の大歓声

「みんなぁ、今日はKOMACHIの生ライブパーティに来てくれてありがとう!」
「次は11月だよ!」
「ぜったいまた来てね〜!!」

バーチャルスタジアムを埋め尽くしたお客さんのアバターが立ち上がって大歓声をおくる。

鳴り止まない拍手と歓声。

私はゆっくり歩き、手を振りながらステージ袖へと退場する。

私の名前は、『KOMACHI』。ローマ字だよ。間違えないでね。
VTuber、つまりバーチャルライバー。
十二単を身に纏い、そのビジュでキレッキレのダンスを踊る。
時には持ち歌を熱唱する。

週に1回のホロライブは、毎回2万人以上が参加。
年3回のライブパーティでは、全国のライバーたちと一緒にステージに立つ。
今日のLIVEなんて、5万5千人のアバターが参加したんだ。
そのうち5千人くらいは推しが『KOMACHI』だと思う。

アリーナ席を入れると東京ドームと同じキャパ。
前売りなんて30分で完売した。
なのに、スパチャの額も半端じゃない。
私、未成年だからこっそり貯金してるんだけど。
怖くて、残高見られないよぉ。

中学に入ってから、毎週ずっとホロライブを続けてきたら2年間でこんなんなっちゃった。

え?
どこでそんなバーチャルライブをやってるのかって?

う〜ん。内緒だよ。

実はね、吉浜駅の近くに、歌舞伎茶屋ってのがあるんだ。
うち、そこのオーナーと親戚だから、人形歌舞伎を上演してないときに、一角を使わせてもらってるの。

おっきな建物の中だから、誰にも見られないし、最高でしょ。

はたから見てると、パソコンの前で独り言しゃべってるだけだから何も言われないよ。
多分、オーナーさんは、TV電話してるって思ってるみたい。
まあ、間違っちゃいないけど。

<シーン2/学校の教室>

■SE〜学校のチャイム/教室の環境音

「あ、おはようございます・・・」

私の本職は・・
ってか本当の姿は、吉浜中学の2年生。
こう見えて、人見知りするタイプなんだ。
周りからはきっと、陰キャでコミュ症って思われてる。

趣味は散歩と、スイーツめぐり。
あ、友だちいないから1人でブラブラするだけだけど。

名前?
あ〜、個人情報訊く?

まあ、いいや。

M.I.(エム・アイ)。

みんなからも、たまーにそやって呼ばれるんだ。
名前の頭文字じゃないよ。
私の名前、漢字三文字の真ん中の言葉からとったの。
まあ、あとは想像して。

うちのクラスは37人。
この中にも、わかってるだけで私のファンが5人いる。
いや、私じゃなくて『KOMACHI』のファンだわ。

なんか、すっごく後ろめたいから、ホロライブのとき『中学生以下はスパチャ禁止!』なんて言ってるんだよ。
でも、そういうと余計にみんなスパチャしてくるんだよなあ。

ちょ、誘導なんかしてないって。
うち、そんなあざとくないもん。

ただ、1人だけ、誰だかわかんない子がいるんだー。
絶対このクラスのはずなんだけど。
毎回、一番最後にスパチャしてくれる子。
それって、ライブを評価してくれたのかな、って、ちょっと嬉しくなる。

いつか必ず、見つけるから。

<シーン3/人形小路>

■SE〜人形小路の環境音(車も少なくそんなにうるさくない)

「あゝ気持ちいいなあ」

秋は夕暮れ。

この時期人形小路を散歩するのが、一番好きな時間。

『夕日の差して山の端いと近うなりたるに・・・』

■SE〜カラスの鳴き声/夕暮れの環境音

な〜んて、意外?

え〜、私って文学少女なんだよ。

だってほら、吉浜から海の方まで歩くと、本当にこのまんまの景色なんだから。
つるべ落としで、気がつくと帷が降りて、虫の声が聴こえてくるの。

VTuberの『KOMACHI』が十二単を纏っているのも、清少納言への憧れ、かな。

そうだ、日が落ちる前に、人形小路の細工人形みてまわろうっと。
もうすぐ菊まつりだから、一番館にはそろそろ菊人形もいるはず。

人形たちをじっと見つめてると、想像力が湧いてくるんだ。
筆が進むってわけよ。

え?
さっき文学少女、って言ったでしょ。
小説を書いてるの。

なんでって?
なろう系に投稿してるんだもん。
まだ3作目だけど。
こっちのペンネームは、ひらがなで『こまち』。
誰も、VTuberの『KOMACHI』だなんて思ってないけどね。

結構、読まれてるんだよ。
感想も10人以上から入ってる。
長編書き上げるたびに、文学賞にも応募してるから、いつか芥川賞か直木賞をとりたいなあ・・無理だけど。

一番館から、八番館、宝満寺・・

細工人形たちをめぐり、柳池院で大河ドラマの細工人形を見ていたとき・・
視線を感じて振り返ると、

「あ?」

同じクラスの・・・

「えっと、誰だっけ?」

「ぷっ(笑)」

「だって、私とおんなじ呼ばれ方」

「私の日課だもん」

「あなたも?」

「すご」

「したけど」

「すごいなぁ」

「へえ、なんで?」

「うっそ、初めて知った」

「うん」

「っと、スピリチュアル?」

「ふうん・・」

「思わないよ」

「ねえ、もうすぐ菊まつりだね」

「クリエイターだね。私も創作意欲湧いてくるわ」

「もう、すごおい、しか言葉が出てこんし」

曖昧な返事をして彼と別れた。
だって、その日はライブパーティの日だもん。
ああ、でも、こんなに誰かと話したのは、何日ぶりだろう。
帰り道。
いつもより上がったままのテンションを、秋風がクールダウンしていった。

<シーン4/秋の生ライブパーティ>

■SE〜LIVE会場の大歓声

「みんなぁ、また会えたね!!ありがとう〜!!」

今回のライブパーティもバーチャルスタジアムをアバターたちが埋め尽くす。
沸き起こる『KOMACHI』コール。

1曲歌い終えて、2人目のライバーへ引き継いだとき、スマホが光った。

LINE?

え?彼からだ。

なに?

うそ!?そんな!どうすんの!?

え?え?どういうこと?
私が?なんで?

え・・

え〜っ!?

知ってたんだ・・

私は、5秒考えて、返事をした。

■SE〜LIVE会場の大歓声+菊まつり会場の大歓声

「菊まつり会場のみんなぁ、お待たせ〜!!KOMACHIです!」

驚きの声と、それをかき消すものすごい大声援。
その大歓声は、少し離れた歌舞伎茶屋で配信をする私にも聴こえてくる。

「今日のKOMACHIは、いつもより思いっきりはじけていくよ!」

バーチャルスタジアムの歓声とイベント会場の歓声がひとつになる。
スクリーン越しに歌い、踊るKOMACHI。
そのうねりは、脇を通る電車の音さえ、かき消していった。

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